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最高裁判所第三小法廷 昭和37年(オ)605号 判決 1962年12月25日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人弁護士安永沢太の上告理由は別紙のとおりである。

上告理由第一点について。

論旨は、原判決が、上告人らの当事者参加の申立を却下したのを非難するのである。

論旨はまず、上告人らは、本件直接請求の署名簿の署名の効力について争つているのではなく、署名簿自体の無効を主張し、その無効確認及び基山町選挙管理委員会がした本件決定の無効確認を求めるのであるから、地方自治法二五五条の四の規定にかかわらず、本訴に当事者として参加し得る旨を主張するのである。しかし、同条は、直接請求の署名簿の署名の効力については、同法に定めている争訟の提起期間及び管轄裁判所に関する規定によつてのみ争うことができる趣旨を規定しており、そして、同法七四条の二に規定する署名の効力に関する争訟は、個々の署名の効力の有無を対象とするものであるが、上告人主張のような理由により署名簿そのものの効力を争う場合をも包含するものと解すべきである。けだし、同条の争訟で同時に複数の署名の効力を争うことは何らの支障もなく、署名簿そのものの効力を争うことは全部の署名の効力を争うことに帰するからである。前記地方自治法二五五条の四の趣旨は、署名簿そのものの効力を争うについても、同法七四条の二の規定によつてのみ争わしめる趣旨と解するのが相当である。上告人らは当事者参加を申し立てたのであるが、当事者としての参加の申立は訴の提起にほかならず、そして、同条八項は市町村選挙管理委員会の決定に不服のある者の出訴期間を決定のあつた日から一四日以内と規定しており、上告人らが参加の申立をしたのが右期間経過後であることは記録上も明らかであるから、上告人らの当事者参加の申立が不適法であることも明白である。当事者参加の要件について判断するまでもなく、原判決が上告人らの申立を却下したのは正当である。

論旨はまた、原判決は、民訴二二五条を誤解し証書真否確認訴訟に対する判断をしていない違法があるというのであるが、前述のように、署名簿に関する訴訟は、地方自治法七四条の二によつてのみ提起できるのであるから、所論の点は、原判決の当否に関係がない。

論旨はさらに、職権による訴訟参加を規定している行政事件訴訟特例法八条に言及するのであるが、同条は関係行政庁その他の第三者を当事者として訴訟に参加せしめる趣旨の規定ではないのみならず、同条の趣旨からいつても、本訴における上告人らの当事者参加を是認しなければならない理由はない。

同第二点について。

論旨は、原判決は行政事件訴訟特例法一一条一項の解釈を誤つた違法があるというのであるが、原判決も説明するように、署名の効力に関する訴訟では、その効力を確定することこそ法の趣旨に合し、かつ、公共の福祉に適合するのであつて、この種の訴訟に同条を適用し処分を違法としながら請求を棄却する余地はないものというべきである。原判決は正当であつて、論旨は理由がない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 五鬼上堅磐 裁判官 河村又介 裁判官 垂水克己 裁判官 石坂修一 裁判官 横田正俊)

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